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福岡地方裁判所小倉支部 昭和23年(モ)12号 判決 1948年12月28日

債権者 申請人

空閑健士 外二名

債務者 被申請人

東洋陶器従業員組合

右当事者間の当聴昭和二十三年(ヨ)第六〇号仮処分申請事件に付同年二月八日当庁の為した仮処分命令に対し債務者から適法な異議の申立があつたから口頭弁論を経た上次の通り判決する。

主文

当庁が昭和二十三年六月八日本件に付為した仮処分命令は之を認可する。

訴訟費用は債務者の負担である。

申請の趣旨

債務者代理人は主文同旨の判決を求める。

事実

(一)、申請人空閑健士は九大応用化学科卒業生にして東洋陶器従業員組合の常任執行委員兼生産部長を債権者杉義勝は明専卒業生にして同組合の常任執行委員兼生産副部長を債権者大谷昌は久留米高工卒業生にして同組合の生産企画委員を為し何れも東洋陶器株式会社の従業員である。

(二)、而して右会社及同組合間の労働協約は所謂クローズドショップにして会社の従業員は必ず組合員たることを要し従て組合を除名されると会社から解雇されるの止むなきに至るものである。

(三)、従て組合の除名処分は死刑の宣告にも等しいものであるから深く原因を探求し且被除名者の弁明をも許し且証拠を判断して決すべきこと勿論であつて同組合規約第三十一条に依り除名原因が定められ同第三十三条に依り組合員の提訴並に自己の言動に付ての議決の際参加発言権を規定されて居る。

(四)、然るに組合に於ては一部勢力が結束して専制を為し自己の気に合わない者に対しては之に証拠のない汚名を負わせ弁明並に証拠提出の機会を与えず遂に除名処分迄為すに至つたのでその無効確認の訴の外はない。

(五)、即ち昭和二十三年四月三日組合は会社に対して赤字補填資金要求闘争を行うことを決し即日総額四百十万円の要求をした処同月八日会社はその内二百三十万円を承認し残額百八十万円を拒絶した茲に於て組合は闘争方針を決定しストライキ突入の態勢を整えた然れども今日会社の経理状況は過去に於けるが如く会社に蓄積資本ある場合と異り生産を向上させなければ賃金の増額は困難な状況に在りストライキに依つては却て生産を阻害し赤字補填金の支出も困難となる処あり債権者等は何れも生産部長、同副部長同委員として此の間の事情計数に明かであつた為ストライキに依つて要求を貫徹するよりも寧ろ会社に直接事情を説明して要求を貫徹するに如かずと考え会社側を再三説得した結果一部の条件を附して総額四百十万円支給を会社側に承認させた斯くて会社並に組合は同年四月二十二日右案を基礎として完全円満に協定成立し執行委員会並に総会も之を承認し当時の組合長萩原操は之に署名調印した素より債権者等の案における一部の条件も亦右協定書の外に一歩も出ず他に秘密協定等ある筈はない。

(六)、組合が右の如き債権者等の直接説得に不満があるとすれば前項の協定に反対して飽迄ストライキをすれば足るものであるに拘らずその際は何等異議なく之を承認した然らば組合は寧ろ債権者等の功績を認むべきであるに拘らず却て債権者等が会社に直接説得したのは組合に対する裏切行為であつて会社に力を与え組合に無形の損害を与えたと主張して遂に債権者等の除名問題を惹起するに至つた。

(七)、即ち同年五月十六日当時の組合長萩原操、副組合長梶山光樹、書記長井上圭次郎は債権者等の除名を決意し同月十七日常任執行委員会を開催し同組合長は席上債権者等の除名を主張し其の理由として(イ)債権者等は会社と八百長交渉をした(ロ)会社に組合の内状を報告した(ハ)近く為すべき賃上闘争は組合が倒れるか会社が倒れるかの闘争であるから債権者等を除かねば闘争が困難であると述べ何等その主張に付ての証拠の提出をせずして事実であると専断して同委員会をして債権者等の除名を決定せしめ次で同月二十二日の執行委員会に於ては組合規約三十三条に違反して債権者等に退席を求めて討議評決し又執行委員でない傍聴者に対して組合長の専断を以て発言を許し債権者等に対する虚偽の中傷を為さしめその演説中これには証人があると述べたのに対し他の者がその証人の氏名を挙示せよと求めたところ証人の氏名は挙示する必要なしと制止し恰も虚偽の事実に付真実証人がある如く執行委員会をして誤信させ遂に債権者等の除名を決議させるに至つた。

(八)、斯くて当時萩原組合長は(イ)組合幹部が闘争中闘争本部の決議に反し単独交渉をした之は組合の統制を紊したものである(ロ)会社側に精神的力を与えたという理由を挙示して債権者等の除名を公告通告した。

(九)、然れども右の除名処分は(イ)単独に会社側と面会したことは事実であるが債権者等も亦執行委員闘争委員であつて要求事項貫徹の為に説明又は努力するのは決議に反して単独交渉をしたことには該当しない且何等統制を紊したものではない又斯かる決議が明確にされたことはなく只お互に裏切はせずとの申合があつたに止まるものである而して交渉と云うからには相当の懸引を含むものであるけれども債権者のしたことは単なる要求貫徹の為の説得行為に過ぎない。(ロ)又統制を紊したと主張するけれども組合と会社との間に四月二十二日交渉成立する迄組合内の統制を紊したことはない会社も略組合の要求を認めて円満に解決したものであつて統制を紊した事実は全くない強いて云えば組合長一人の功績とすべき要求貫徹に付債権者等の力があつたことが組合長の威信に関すると云う程度に過ぎない(ハ)会社側に精神的力を与えたことはない又組合に無形の損害を与えたこともない精神的力又は無形の損害とは何を指すか斯かる抽象的中傷によつて債権者等を除名すると云う様なことは組合ボスの専制も其の極に達したものと云うべく昔の封建君主を組合の美名の下に温存すると云つても過言ではない(ニ)本件除名処分の基礎となつた五月十七日の常任執行委員会及同月二十二日の執行委員会に於ける議決は組合規約に反して為されたものである即ち規約三十三条二項に依れば組合員は自己の言動に関し議決がなさるる場合には自ら参加し発言する権利を有すとあるに反し債権者等を退席させて討議議決をした又傍聴者に勝手に中傷的発言をさせその発言中これには証人があると云う陳述に付証人の氏名を挙示せよと求めた者があつたに拘らずその必要なしとして却下しその中傷的発言を真実であると誤信させた。(ホ)右除名処分公告後組合員総数千四百余名の三分の一以上である五百数十名が除名処分の取消又は減刑の嘆願をし総会の開催を求めたのに対し組合長は、組合規約十七条に違反して之を却下した等の理由に依り無効である。以上に依り本件除名無効確認訴訟を既に御庁に提起したけれども、組合は会社に対して除名に基く解雇を要求して居り、斯様な不当な除名に因り債権者等が解雇さるれば即日から失業し路頭に迷う外ない急迫な事情にあり之が為回復すべからざる損害を蒙る処があるから、本件仮処分決定を仰いだ次第である旨及び債務者の異議の主張に対し申請人等が仮処分後マイクロホンで放送したことは事実であるけれども、それは真実を組合員に告げたに止まり、何等組合の分裂或は第二御用組合の結成と云う様な放送をしたことはない。却て組合幹部は申請人を攻撃し或は漫画等を以て申請人等の名誉を毀損すべき事を宣伝し、進んでは裁判所迄攻撃するに至る様な放送をしたけれども申請人等は自重していたものである。其の後申請人等が数日出勤を見合せたのは示談進行中であると考えた為、組合を刺戟しない為と会社から出張を命ぜられた為或は郷里に帰省した為であつて、最近は出勤中である又斯かる事情は法律上仮処分を取消す何等の理由とならない。又同様の事件が各地に起ると云うことも全く理由とならない寧ろ斯かる訴訟が各地に起つて労働組合の過誤を訂正してこそ組合の発展を促すものである。又組合の自主的運営を阻害すると主張するけれども自主的とは独裁的治外法権的存在と云う意味ならば格別日本の労働組合と云う法律による団体である以上日本の法規に服すべきは当然であつて従て、日本の法律上仮処分の理由があれば之を受くるのが当然である。労働組合は社団であるけれども、その内部関係は民法上の組合の規定の適用がある例えば合名会社の内部関係の如くである。而して民法六百八十条に依れば正当な事由ある場合に限り他の組合員の一致を以て除名することを得ると規定している即本条に該当しない限り多数決のみで除名するのは失当である。正当な事由とは、当該組合員を組合から除外することが一般に正当であると認めらるる場合であつて、その正当なりや否やは本案訴訟に於て裁判所の判断によつて定まるところである。尚執行委員会の決議に於て裁判所の判断によつて定まるところである。尚執行委員会の決議により除名を為し得との規約自体も亦同法に鑑みその効力を否定さるべきである殊にクローズドショップの下に於ては除名は生存権の否定に等しいものであるから、多数決によつて之を奪うことは組合結成の目的に反し之を為し得ないものであつて、所謂組合員の固有権であると解せらる判例を研究するに英国に一九〇九年オスボン事件あり労働組合支部書記オスボンが組合財産管理人を相手取り組合財産を代議士援助に使用することを差止むる訴を起して勝訴した茲に於て、組合はオスボンを除名したところオスボンは除名無効の訴を起し除名停止の命令を得判決の結果オスボン勝訴となり除名無効が確定した。アメリカに於ても同様の判例ある由である。以上の如く申請人等に組合除名無効の裁判を求むる権利ある以上此の権利関係に付著しい損害を避け若くは急迫なる強暴を避けその他の事由により仮処分を求め得ることは当然である。若し之を否定するとすれば、仮りに申請人が本案訴訟に於て勝訴の判決を得ても既に解雇され生存権を失つた場合は到底判決の結果を実現し得ないことが明かである之に反して組合は仮処分により何等の損害を蒙むるものではない。申請人等が組合の分裂や御用的第二組合結成を企図したとの主張は全くその根拠のない虚偽の主張である尚本件除名後組合員は、組合幹部の鼻息を窺うに急であつて、若し除名さるれば自己の生活を脅かさるることを恐れ、恐怖のドン底にあり、組合の民主化の為には除名処分が正当であるか否やの公明な判決を待望しているものである組合の異議理由の第一は本案訴訟が失当であつて、疏明の誤又は不十分を主張するに帰着するけれども、本案訴訟の正当なりや否やは本案訴訟の結果を待て判断すべく疏明が誤なりや否やも本案訴訟に於て詳しく審理して始めて判明することである。疏明が不十分であるのは疏明の性質上当然であつて、完全な証明を要求すれば云を拒否するものではない。異議理由の第二は労働組合の自主的調整により組合の問題は総会全日化地労委に提訴すべく裁判所に提訴すべきでないと云うのであるけれども除名を申請人等に通告する前に除名並に其の一方的理由を公告し申請人等に対する総会提訴の機会を与えなかつたのみならず、先ず組合長に於て除名を決定し之を執行委員会に押つくる如き方法をとり自由討議の途を封じたり又三分の一以上の組合員から軽減嘆願運動が起つた際も之を取上げず萩原組合長自ら職場に宣伝並に弾圧を加えた組合員は萩原を天皇と称して極度に恐れて居り自由討議は不可能の状態にあつた当初申請人等に事情を聴取したことなく先ず除名に決した旨を通告し申開あれば申出よと申したものである全日化に於て斯かる問題を取扱うと云う規定はない。少くとも申請人等は之を知らない殊に全日化の議事録と称するものを見るに、組合の報道宣伝のみを信用し何等の調査もせず即座に決議するが如きものである。以上本件の如きを取扱うに適当でないこと明かである。労働委員会に於て、斯かる問題を判定し得ると云う法的根拠はない。朝日評論七月号所載中央労働委員会の見解にも組合員の除名問題は労働委員会に於て取扱うのは相当でないこれは裁判所に提訴して判断を仰ぐべきである旨発表している。又欠勤は一時的のものであつて、最近は全員出勤中である同種事件が各地に起ることは却て本件仮処分の必要を認めしむるものである。例えば、川崎炭坑労働組合に於ては反幹部派百一名(組合員三百六十五名中)除名を為し、日水労働組合に於ては共産党員を組合に損害を加えたとして除名する等多数決によつて除名を決定することは不可なることを教うるものである。殊に日本人は附和雷同権力阿附の特性を有し、其の時の多数派に盲従する特性がある少数派の意見を尊重し之と相抗争するところに進歩があり、且つ腐敗を防ぐ妙用があると云う原理を知らないことに起因するものである。アメリカに於てはクローズドシヨツプに於ては、労働ボスが除名を濫用することを一つの理由として之を禁止するに至つた団体交渉権の神聖不可分単一性と云うが如きは概念であつて、その意味は明かでない。且つ実際に遠ざかるものである。要するに申請人等が闘争委員として主観的に組合の為になし、客観的に組合の為になしたと認められる以上何等団体交渉権の侵害はあり得ない況んや何等の実害がないに於ておや、団体交渉権も亦他の権利と同じく正当に行使さるべく其の濫用を許さないものであつて、特に神聖なる特質を有するものでないことは通説である。要するに本件行為は組合の云う各個撃破の一態様に過ぎない旨陳述した。(疎明省略)

債務者代理人は本件当事者間の昭和二十三年(ヨ)第六〇号仮処分命令申請事件に付昭和二十三年六月八日為したる仮処分命令は之を取消す債権者の仮処分申請は又を却下する訴訟費用は債権者の負担とする旨の判決及仮執行の宣言を求め異議の理由として、債権者等は本件仮処分命令を受くるや直に会社に出頭して同日マイクロホンを通じて真相を歪めた放送を為し、組合を中傷攻撃し撹乱するの挙に出た又同趣旨の声明書を貼付して組合に挑戦するの態度に出た右は単に一組合員又は一会社員として出勤するのではなく、組合に破壊作用を与えるもので組合の分裂御用的第二組合結成等の事態をも惹起するかも知れぬので仮処分命令を取消すを相当と認める。債権者等は仮処分命令があつた後二、三日出勤したのみで全く出勤しない会社側から給料の支払は受けていると思われるが、斯かる態度は仮処分命令を受けた実益を抛棄するもので、しかも組合には不明朗なものを残しているから取消すべきである除名無効確認の訴が全く意味のない言い懸りであることは、本訴答弁書記載の通りであつて、本件仮処分命令がつづくことによつて、組合運動を著しく阻害するばかりでなく、全国の労働組合に同様な組合内の処分問題が起つたとき誰でも一応仮処分を求める様になり、斯くては労働組合の自主的運営は著しく阻害せられ、労働運動は非常な制約を受くることとなるのである。此の点から云つても本件仮処分は不法なもので取消さるべきである尚

(一)、相手方の疏明書類を検討するに全く申請の理由がない即ち(1)延義之の証明書によると、五月十七日の常任執行委員会の事が記載されてあるが、之れは一部を記載して全部ではない記載中六、三人に対し直接に聞いた事はなし証人は呼出さずといつているが、乙第一号証議事録にある通り五月十七日は空閑、大谷、杉の三氏を交々呼入れて心境動機当時の模様を聞いている其の後二十一、二十二日常任委員会、執行委員会を開催し、其の都度三氏から充分意見を聞いている抑々常任執行委員会は執行委員会の下部機関であつて此の時は執行委員会に議題とするや否やの下審議をしたもので、此の時三氏が自白した以上特に証人等を詮議するに及ばないもので何も違法はない。(2)上田晃、稲田淳の各証明書に依ると除名軽減歎願署名はしたが特に規約上の総会招集を請求したものでない事は明白で手続上何も違法なものを発見し得ない。(3)川谷匠の証明書に依ると五月二十二日の執行委員会の情況を説明して曰く同委員会に三氏は列席し行動其の他に就いて執行委員及傍聴者と質疑応答の結果退場を願い無記名投票で議決したと述べて此処にも何等違法はない投票するとき丈退場を願い三氏も納得して退場したまでである。(4)拵井貞行の証明書は五月十七日の常任委員会と同月二十二日の執行委員会の情況を述べているが前者については同日の一部について述べ後者については議案の予告がなかつた、傍聴者の発言を許したといつているが議案の予告は総会には必要であるが執行委員会には要件ではない(規約十六、十七)。又傍聴者には議長が可否を決することになつている発言については、其の都度慣習上決しているが特に議事の効力を左右する程決定的理由とはならない要之相手方疏明書類は申請理由を証明し得ないばかりでなく異議申立人の申立理由の正当さを裏書するばかりであるから此等が分明となつた以上仮処分は取消さるべきである。

(二)、労働組合の自主的調整と云うことは労働法を一貫した精神であつて労働関係に於ける紛争の処理機関は第一にその単一組織の組合であり第二に其の組合が所属する連合体であり第三に労働委員会である本件では右の第一の機関たる東洋陶器従業員組合の総会の召集をも為さず第二の全日本化学産業労働組合の訴願機関にも提訴せず第三の福岡地方労働委員会の判断をも得ず、一挙に裁判所に訴を以てしたことは労働関係の自主的調整と云う本旨に悖るのみならず、申請人等は此等の機関に判断を仰いでも全く見込がない事を充分自覚していたのである。殊に権威ある労働委員会に之れをしなかつたのは本件除名が労働組合運営の性質上当然であると云渡されることを極度に怖れたのであつて、此の事からも本件が全く言い懸りそのものである事を裏書していると云える。此の意味から云つても本件仮処分は取消さるべきである全日本化学産業労働組合(略称全日化)は大会の決議を以て東洋陶器従組の行動の正当であつたことを確認している。

(三)、東洋陶器従業員組合綱領(乙第三号証)の劈頭に我等は労働組合の健全なる発展が日本民主化の基盤たることを認識し、強行なる自主的組織を確立し、産業民主化の促進を図り以て、新日本建設に貢献せんことを期すと述べこれは日本労働組合十六原則憲法、労働法と彼此相俟つて解釈せらるべきである全日化の副組合長亀田東伍氏が九州地方の組織状況を点検に来たとき東洋陶器の組合は九州中で一番よい模範的な組合だと折紙をつけて行つた程で此の組合の自主性自治性の確立していること団結の鞏固なこと頭脳的な運営等定評のあるところであつて本件仮処分は全く事情を知らぬ裁判所をだましたもので速かに取消さるべきものである。

(四)、本案訴訟に於ける相被告たる会社側代理人は訴訟休止を申立てて何等の陳述もせず退席したが、此の事自体が既に申請人等を擁護する結果となるものであつて申請人等は使用者の庇護利益を受けているばかりでなく使用者は労働組合に対し不利益な取扱を為しているものであつて、これは労働組合法第十一条違反である。これ亦仮処分を速かに取消さるべき理由であると云わねばならない旨陳述した(疎明省略)。

理由

当事者弁論の全趣旨に依れば債権者等が何れも東洋陶器株式会社の従業員であり、同従業員を以て組織された債務者組合の組合員にして債権者空閑は常任執行委員兼生産部長債権者杉は常任執行委員兼生産副部長債権者大谷は生産企画委員であること、組合と右会社との間の労働協約に於て、クローズシヨツプ制が採用されていること組合に於て昭和二十三年四月三日右会社に対し赤字補填資金四百十万円の要求を為し数回に亘り団体交渉をしたけれども一旦決裂した後会社側の提案に依り交渉再開の結果同月二十二日四百十万円の全額要求完徹し交渉妥結したことその後に至り右交渉中債権者等が他の交渉委員の諒解なくして会社側の者に面会して要求に関し談話したことが判明した為之を統制規律を紊したる者として同年五月二十二日の執行委員会に於て債権者等三名を除名する決議を為し同月二十七日其の旨通告に依り除名したこと等の事実が窺われる。而して甲第九号証の二甲第十号証の二の各供述記載乙第五号証の一、二の記載に当事者弁論の全趣旨を斟酌すれば債権者等が会社側の者と面談した内容は会社側の者に対してストに突入することは折角上昇途上の生産を減退させ不利益であるから全面的に要求を承認するのが得策であることを勧説した外組合の為に不利益なことを洩したことなく、又之が為会社側の者に組合の結束が弱いという感を懐かせたこともなく交渉の結果についても組合の満足すべきものであつて、別に組合に不利益を及ぼしたことはなかつたと云うことが観取される。しかし、乙第十四号証の二に依れば債権者等を加えた交渉委員の会合席上で個別交渉のことが話題に上り結局之はしない方がよろしいと云うことになつたことが認められるから債権者等も此の線に沿つて行動すべきであつたに拘らず悪意の認むべきものがないとは云え他の委員の諒解を得ることなしに単独行動をとつたと云うことに、一応規律統制を紊したものと云い得るし、その結果殊に争議中の統制を重んずる労働組合の面目を多少なりとも傷けたと云わざるを得ない。然らば此の事が除名の正当な理由であると云い得るであろうか勿論正当な理由の有無従つて除名の有効無効は結局は裁判所の判断すべき法律問題である。乙第三号証乙第七号証に依れば債権者等には執行委員会の決議に不服の場合組合総会に訴え又は全日本化学工業労働組合に裁定を求めることが出来ると云う途があることが認められるに拘らず、債権者等が敢て此の挙に出なかつたことも当事者弁論の全趣旨に徴して明かであるけれども、右は民事訴訟法に規定する仲裁契約とは認められない。そして右の様な場合には先ず右の方法に依ると云うことが好ましいことではあるけれども見透しその他の事情で無駄と思われる場合もあろうし此の挙に出なかつたからと云つて、裁判所の判断を求むる権利を失うものではない労働委員会には組合内部の争に付決定の権限はないのであるから之に提訴することを強いられる理由はない訳である。却説債権者等の所為は前説示の如く、極めて軽微なものであり而かも乙第一号証の一に依れば債権者等は本件委員会に於て前非を自覚して陳謝の意を表して居て将来反覆の虞がなかつたこと、クローズドシヨツプ制の結果除名されると必然的に解雇されて失業の憂目を見ねばならぬに立至ると云うこと等を綜合して一般社会通念に照して観れば到底之を以て反組合性が顕著であつて、組合としては止むを得ないと云う様な場合にのみ為すべき除名の正当な事由とすることは出来ないから、結局本件除名は正当な事由を伴わないものであつて法律上無効であると云わねばならぬ。之に反対する乙第八乃至十号の記載は採用しない斯様に除名が無効であると観られるに拘らず、債権者等はクローズドシヨツプの関係上会社から解雇せられる虞があり若し解傭されるときは失業して現下の状勢から容易く他に就職することも期待薄く生活を脅威されると云う急迫の情況にあるから、本案確定に至る迄仮りに組合員たる地位を定むる必要があると認められるから前決定は之を認可し債務者の異議は排斥すべきである、仍て民事訴訟法第七百四十五条、第八十九条に依り主文の通り判決する。

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